495年1日
毎年恒例の移住者到着。
ひょっとしたら、と思って港で待ってたら、案の定今年も来たみたいだ。
今年来たのは、アブドラ・アーバインさん。
この人もコークショルグ所属で、なかなか強そうだ。
年齢を考えると、上がってきてくれるかどうかはわからねぇけど、一度は戦ってみたい相手だな。
この移住者紹介も既に毎年恒例。
アブドラさんは24歳で、コークショルグ・リムウルグ所属。
性格はお人好しとのことなので、事実試合での活躍は期待できない。
……と、そんなことより、だ。
Aリーグに昇格が決まった時からこの日が来るのはわかってたんだが、ついに今日、オレの6大大会出場が決定した。
そして、6大大会出場が決定するってことは、当然オレのギブルが売り出されるってことだよな。
今までオレはギブルを買う側だったんだが、自分のギブルが売り出されるってのは……そして、それを誰かに買ってもらうってのは、どんな気分なんだろうな?
それが知りたくて、オレは神殿前に向かった。
ギブル売り場では、既に今年のトーナメント表が貼り出されていた。
オレが割り当てられたのは5番の枠。
初戦の相手は……いきなりダラー議長かよっ!
そんなとんでもない組み合わせになってしまったせいか、オレのギブルは現時点で3番人気タイの12.7倍。
こいつぁ、思ったより倍率が高いな……もちろん自分では買うつもりなんで、倍率は高いに越したことはないんだが、倍率が高いってこたぁ、それだけ売れてないってことだから、人気がないってことで……うーん、複雑な心境だな。
……と、しばらくそれとなーくギブル売り場を見てたんだが。
なんか、ほとんどの人が8番のデペッシュさんのギブルを買ってるんだよな。
カナリアも来たりしたんだが、やっぱりデペッシュさんのギブルを買ってたし。
デペッシュさんがそんなに強いとも思えねぇし、ディフェンディングチャンピオンもいるってのに、なぜデペッシュさんなんだ?
そんなこんなでしばらく見ていたんだが、6番とか3番はいても、5番のギブルを買って帰る奴はなかなかいねぇ。
早く大道芸を見に行きたい気持ちもあるんだが、どうしても、大道芸よりこっちが気になるんだよな。
そうこうしていると、今回も7番のカリンさんが、4番のケミカルさんのギブルを買って行った。
この人の場合は……負けた時のための保険なのか?
……で。
夕1の刻まで待ったが、5番ギブルを下げて帰るヤツは一人もいねぇ。
ギブル売り場で倍率をチェックしたところ、5番ギブルを引きずって帰る人がいなかった、と言うだけのことで、一応売れてはいるらしい.
夕2の刻には、デペッシュさんが悠々と自分のギブルを買って行った。
ちなみにその時点でオレは42.4倍の5番人気。
今年はオレが出る以上、オレのギブル以外は買わねぇし、買う意味もねぇとは思うが、一応例年どおりの形式でチェックを入れてみるか。
まず、1番人気はデペッシュさんで1.1倍。
まぁ、強くもなく弱くもなく、って感じだが、ジマショルグで剣術中心は正直厳しいんじゃないか?
続く2番人気はダラー議長で3.6倍。
他の選手と比べても強い方だし、特にスピードはかなりのモンだ。
ショルグもミダなんだが……なぜか体術中心なのが吉と出るか凶と出るか、だな。
3番人気はカリンさんで15.1倍。
純粋に強さだけ見れば、おそらく、出場選手中最も強いのはこの人だろうと思う。
ただ、いくらコークショルグ所属でも、ミダ杯で剣術のみ、ってのは厳しいと思うんだが。
4番人気はディフェンディングチャンピオンのウェザーさんで、17.6倍。
前回大会からの2年間で負けが込んだらしく、現在はBリーグ所属だ。
ディフェンディングチャンピオンにも関わらず人気が低いのは、おそらくそのせいだろう。
能力的には強くもなく弱くもない、というレベル。
この人もなぜか体術中心なんだが、みんなミダ杯をなんだと思ってるんだ?
5番人気はオレとケミカルさんで、42.4倍。
オレの方は、とりあえず分析するまでもないんでさておくとして。
ケミカルさんはどっちかというと強い方なんだが、ジマショルグで、しかもなぜか剣術中心。
正直言って、厳しいだろうな。
そして7番人気はナイームさん、ポポさん、ユカさんで53倍。
ナイームさんはスタミナがあり、ミダショルグで魔術中心。
人気は低いが、ひょっとしたら最も警戒すべき相手かもしれないな。
ポポさんはスピードがあり、ミダショルグ所属。しかしこの人も体術中心……どうなってんだ?
最後のユカさんは無尽蔵とも思えるスタミナを持つものの、コークショルグ所属のせいかなぜか剣術のみ。
しかも剣術はあまり得意でないらしく、レベルの高い技は使いこなせない様子だ。
素直に体術中心でくりゃ手強い相手なんだろうけど、あんまり気にする必要はないかもな。
とまぁ、そんなところで帰りがけに自分のギブルを4枚買って行く。
4枚買ったら倍率が23.9倍まで下がったんだが、これでも当たればすごい額だし、どうせまた倍率は上がるんじゃねぇか?
495年2日
今日はショルグ新年祭。
やっぱり、新年祭に参加すると、「あぁ、新しい1年が始まるんだな」と思って、気合いが入るよな。
けど、まずはその前に、今年の試合日程の確認。
さすがにAリーグともなるとかなりの強敵ぞろい、簡単に勝たせちゃくれなさそうだな。
正確な日程(含む相手)は以下の通り。
22日は第1試合(VSカリンさん)
23日も第1試合(VSファリドさん)
24日は第2試合(VSユカさん)
26日も第2試合(VSガーネットさん)
それから、カナリアの日程は……まぁ、どうでもいいか。
とか思ってたら、新年祭終了直後に突然カナリアにデートに誘われた。
何もこんなところで、とも思ったが、別に断る理由もないんでオッケーした。
……やっぱり、カナリアなのかな?
っと、それはさておき。
新年祭の次はウルグ仕事始め。
うちのウルグは若手の台頭が著しいらしく、第5位のジャムさん、第4位のキャサリーンさんがともに「この若さで、このランクとはすばらしい」とか言われてたな。
ちなみにそのすぐ上の第3位はイムイムナァム……抜かれるな、近いうちに。
で、例年ならこれで行事は終わりなんだが、今年は、いや、今年からは、もう一つ大事な行事がある。
そう、夜に行われるミダ杯開会式だ。
オレにとっては最初の開会式だけに、全員揃ってビシッと決めてほしかったんだが、チャンピオンのウェザーさんをはじめ、1番のナイームさんと2番のポポさんも紹介に遅刻。
ナイームさんとポポさんはギリギリアウトだったけど、最初に紹介されるチャンピオンのウェザーさんがその後に来たってのはなぁ……。
495年3日
昨日約束しちまったんで、まずはカナリアとデート。
珍しくこっちから声をかけてみたんだが、やっぱりなんか微妙につまらなさそうでさ。
タラの港に着いたと思ったら、すぐに「今日は、このへんで……」とか言って帰っちまった。
で、その後は特にやることもねぇんで、ふと学校を見に行ってみた。
そしたら……授業時間なのに、生徒はだーれもいないんだよな。
先生はと見ると、一応授業はやらなきゃならないみたいで、教壇の後ろでぶつぶつ独り言でも呟くみたいに授業をしてたんだが……オレと目が合ったとたん、いきなり授業モードに入りやがった。
目線は完全にオレをロックオンしてるし……おかげで、終わりまでしっかり聞かされちまったよ。
生徒が誰もいなかったのは実話。誰もいない教室で一人授業を行う先生の姿は涙を誘う。
そんなこんなで、次の授業が始まる前にとっとと退散。
行くあてもなく走ってたら、ショルグ前についちまった。
せっかくだからと掲示板を見てみたところ、どうやらウォルターは初戦をとったらしい。
ま、あいつにはオレのところまで上がってきてもらわなきゃならないんだから、Dリーグなんかで足踏みしててもらっちゃ困るしな。
そして夜。
例に寄って例のごとく、またカナリアが顔を見せに来た。
おまけに、なぜかこの前来た移住者のアブドラさんまで来た。
まだ何かわからないことでもあるのかと思ったんだが、そういうことでもなかったらしい。
どいつもこいつも、オレがいつも暇だと思ってるんじゃないだろうな?
暇でなければ家にはいないはずだから、実際暇だったんだが。
ちなみに、ミダ杯初戦のナイームさん対ポポさんはナイームさんが勝ったらしい。
やっぱり、ナイームさんは要警戒か……。
495年4日
いよいよ明日から試合ってことで、テンションをあげるためにも久々に訓練を開始。
まずは神殿で勝利を祈ってから、コークショルグで本格的に訓練をした。
帰り際にショルグ前の掲示板を見たところ、ウォルターは今日も勝ったらしい。
この分だと、決着を付けられる日もそう遠くないかもしれないな。
そんなことを考えつつ、一旦温泉に浸かってから、最後は砂浜ダッシュで今日のメニューを終えた。
久々にバリバリ訓練しただけに、夜は家でゆっくり休んだ。
今日は誰が訪ねてくるでもなく、久々に静かな夜だったぜ。
ちなみに、今日のミダ杯はユカさん対ケミカルさんで、ユカさんが勝ったらしい。
495年5日
いよいよ今日はオレの6大大会デビューの日だ。
昨日あれだけ訓練したんだから大丈夫だろうとは思うが、念のためミダショルグで最終調整。
その後もう一度神殿へ行ってみると……ちょうど、イムイムナァムとアンジェラさんが仲良く入ってきたんだ。
これって、もしかして……と思ってみてたら、やっぱり結婚式の予約だったらしい。
それはおめでたいんだけど……今日って、確か新年評議会だろ?
なんでナァムがここにいるんだ? 評議会はどうした!?
気になって評議会館に行ってみると、既に他の評議員は全員揃っていて、コークナァムの席だけが空席。
いよいよ他のメンバーの我慢の限界が到達して、イムイムナァム抜きで新年評議会が始まった……と思った瞬間、イムイムナァムが慌てて駆け込んできた。
遅刻も遅刻、大遅刻だったんだが、幸い議長の挨拶の間に着席できたんでおとがめなし。
まぁ、よかったじゃねぇか、と思いつつ、少しの間評議会を見学することにする。
で、新年評議会と言えば、まずはあいさつの決定だ。
ここ二年間は、「イムイム〜♪」が提案されては否決される、という流れが繰り返されているんだが、はたして二度あることは三度あるのか?
……と、期待したんだが。
イムイムナァム、今年は「イムイム〜♪」を提案せず、なぜか「お元気?」を提案。
しかも、それが7ー2で可決されちまった。
ひょっとしたら、婚約を期にまじめになったのかもしれないけど……それはそれで、なんかつまんねぇな。
……と、この辺りで一旦帰宅。
本当はもっと見てたかったんだが、試合もあるし、まずはコンディションを整えておかないとな。
家に帰って休んでいると、なぜかカナリアがデートのお誘いにきた。
まぁ、断る理由はないんでOKはするけど……今回も、うまくいかねぇ気がするな。
で、休憩し終わったオレは、とりあえずもう一度評議会館へ。
到着した時には、ちょうど議長がまとめを読み上げるところだった。
挨拶は、さっきも見た通り「お元気?」で決まり。可もなく不可もなく、だな。
教育方針は、「まじめに」が選択されたらしい。
おとといみたいなこともあるし、おおむね歓迎すべきだとは思うんだが、今さら教育方針がどこまで影響を及ぼせるかはちょっと不安だな。
そして服装は、「派手な服」になったらしい。
オレとしては、これが実は一番嬉しい。もう地味な服は着飽きたからな。
そんなこんなで評議会は終了。
いよいよ、待ちに待った試合の時だ。
待ちきれないオレは評議会終了後すぐにプルト闘技場で待機。
やがて、ダラー議長もやってきて、いよいよ試合開始の時を迎えた。
6大大会だけあって、1回戦なのにお客がいっぱいでもう誰が誰だかわからない状態。
それでも、とりあえず、こっちにジャムさん、グラジオラスさん、カナリアがいるのはわかった。
あとは、リリィがなぜかど真ん中で見ている……実況でもする気か?
ミダ杯と言うこともあって、オレの戦術は灼火錬術メイン。
議長は体術中心のようだが、ミダショルグだけに強力な魔術技を持ってるんで、そっちの方を警戒すべきだろうな。
そう考えて試合に臨んだんだが、それが思いっきり裏目に出た。
試合開始直後、さっそく灼火錬術を撃とうとしたところに、いきなりカウンターでオーラナックルを食らう。
ミダ杯だから威力は半減しているはずなのに、ハンパじゃなく痛い。
何とか反撃しようとしたところに、さらにもう一発カウンターオーラナックル。
さらに、そこからオーラナックルとステップブロウのラッシュをもらっちまった。
白状する。普通の試合なら、間違いなくオレはKOされていた。
でも、これはミダ杯だった。
議長の攻撃は確かにオレを追いつめたが、オレが倒れる前に、議長のスタミナがつきた。
もちろん、その隙を見逃すオレじゃない。ここぞとばかりに灼火錬術と火風導法で逆襲し、結果255対194で逆転KO。
自分で言うのもなんだが、初戦にはもったいないくらいの試合だったと思うぜ。
ともあれ、これでなんとか6大大会初出場と初勝利を達成。
あとは、「初優勝」を狙うのみ、ってとこか?
495年6日
次の試合が2日後に迫っていることもあって、本当はトレーニングに集中したいんだが、昨日約束しちまったこともあるし、まずはカナリアとデート。
で、どうせ今回もうまくいかねぇんじゃねぇか、と思ってたんだけどよ。
カナリアのヤツ、今日はどうも様子がおかしくてさ。
どうしたのかと思って、オレが声をかけようと思った時。
あいつ、ぽつりとこう言ったんだよ。
「なんで、こうなっちゃったのかな」って。
「本当に、なんでこうなっちまったんだろうな」
オレには、そう答えることしかできなかった。
だってそうだろ? 本当は、オレの方が聞きたいくらいなんだからよ。
どこかでボタンのかけ間違いがあったんだろうけど、それがどこかなんて、もうわからねぇ。
でも……なんで、こうなっちまったんだろう?
気がつくと、いつの間にかタラの港に着いていた。
どうやら、いろいろ考えてるうちに着いちまったらしい。
隣を見ると、カナリアも同じように少しびっくりしたような顔をしてた。
オレは笑った。カナリアも笑った。
照れ笑いというか、苦笑いと言うか、そんな感じの笑いだったけど。
「私たち、やりなおせると思う?」
ひとしきり笑った後、急に真剣な顔でカナリアがそう言った。
「きっとやりなおせるさ」……そう答えたい気持ちも、あるにはあった。
けど、そんな風にうまく嘘の言える人間じゃないんだよな、オレは。
「そんなこと、やってみなきゃわからないさ」
そう答えるのが、やっとだった。
そんなオレに、カナリアは、にっこり笑って答えてくれた。
「それもそうね」って。
例によって例の如く種明かしをしますと、実際に行われた会話は「何しようか」「手を握ってほしいな」。
本当に、久々の関係改善となったわけです。
とまぁ、そんな感じで昼頃にデートが終わって。
その後は少し砂浜を走ってから、試合のこととか、カナリアのこととか、いろいろと神殿で祈ってきた。
そして夜はカリンさん対デペッシュさんの試合を観戦。
この試合で勝った方が次にオレと当たるワケだから、敵情視察もかねて、ってとこだ。
ちなみに、他の客はほとんど子供ばっかりだったな。
ってこたぁ、やっぱり昨日の議長との試合は大会屈指の好カードと認識されていた、ってことか。
それはさておき。
試合の方は、開始直後にお互いのメニスカスレイがクロスカウンターで決まるという形で始まった。
その後、カリンさんはコールドランスなどの剣術技で攻め、デペッシュさんはオーラナックルに適応魔術技を絡めるという形で応戦したんだが、カリンさんはうまい具合にデペッシュさんの魔術技を回避して、徐々にリードを奪っていった。
ところが、ミダ杯で剣術を使ってる以上しょうがないことっちゃしょうがないことなんだが、たいしたダメージを与えられないうちにカリンさんはスタミナ切れ。
その上、その一瞬の隙を見逃さずにデペッシュさんが灼火錬術をくり出し、一気に五分まで押し返した。
まだまだデペッシュさんは余裕があることを考えれば、誰もがデペッシュさんの優位を確信しただろうな。
が、そこからがカリンさんの凄いところだ。
もはや完全に疲労困ぱいしていながら、一気に前進してデペッシュさんを威圧。
完全に、デペッシュさんの技を封じ込めた。
本当に、突然電車道で右端まで移動。デペッシュさんはひたすら防御に徹するのみ。
そしてそのまま時間切れとなり、68対68ながら、判定でカリンさんの勝ちとなった。
議長がオレに敗れたことに続き、ダントツ1番人気のデペッシュさんがこけたことで、すでに1番人気と2番人気がそろって敗退するという大荒れの展開。
実力的に見れば結構順当な結果なんだが、ギブルを買ってる連中は大変だろうな。
495年7日
いよいよ明日が試合ってことで、今日はアイシャ湖で訓練。
……と思ったら、途中でハリスとテイタムが仲良くやってきて、そのまま仲良く出て行った。
もう、泳いでるオレなんか全く眼中にないみたいだ。二人の世界突入中ってヤツか?
そんなこんなで何度か温泉とアイシャ湖を往復した後、暗くなる前にプルト闘技場に向かって場所取りを敢行。
やっぱり、敵情視察は可能な限りよく見える場所でやらねぇとな。
今日のカードはナイームさん対ユカさん。
観客は相変わらず子供中心で、なぜか相変わらず少なめだ。
そんな涼しい客席に負けず劣らず、今日は試合の方も寒かった。
ミダ杯だってのに、ナイームさんは開始早々いきなりオーラナックルを連発。
それなりに当たってはいるものの、ミダ杯で体術技の大技なんか使ったせいで、結局たいしたダメージを与えられないうちに息切れ。
そしてそこからユカさんの反撃が始まるには始まったんだが、攻撃があまりにも単調すぎて、片っ端から防がれる有り様。
なんとかガードをかいくぐって2回ほど当てるも、結局52対19でナイームさんの逃げ切り勝ち。
なんつーか、マジでレベルが低いんだけど。
これ、本当に6大大会だよな?
495年8日
今日はいよいよ試合の日ってことで、まずはコークショルグで試合前の最終調整。
その帰り道、コークショルグの試合スケジュールが目に入ったんで、一応カナリアのスケジュールをチェックしてみたところ、カナリアの試合は11日から14日までの第1試合らしい。
別に、その時期ならやることもねぇし、気が向いたら行ってやるとするか。
……あくまで、気が向いたら、だからな。
それから、ショルグ前の掲示板も確認。
2連勝で無事スタートダッシュに成功したかに見えたウォルターだったが、どうもその後2つを立て続けに落としたらしい。
これで今年のウォルターの戦績は2勝2敗ってことになったんだが、既に3敗しているDリーグ1位のピーターさん以外のDリーガーは全員すでに2勝していること、そしてウォルターの今のランキングがDリーグ5位であることを考えれば、ウォルターの順位はDリーグ4位ってことになる。
あの野郎、このままじゃまた来年は外リーグに転落じゃねぇか!
性格が試合向きでない(=あまり訓練しない)のを考慮しても、どうにも能力の上昇が遅すぎる。
これは、やはりウォルターが晩成タイプだということなのだろうか?
これにはちょっとムカッときたが、試合前にムカムカしててもしょうがねぇんで、気持ちを落ち着かせる意味も兼ねて神殿で勝利を祈願。
その後一度家に戻って休んでから、昨日よりさらに早く闘技場に入ったんだが。
客がほとんど来ねぇ。
特に、オレの側にはテヨンって子しかいねぇ。
そして、それ以前の問題として、対戦相手のカリンさんが来ねぇ。
結局そのまま不戦勝ってことになったんだが……あぁ、何かこうスッキリしねぇな!!
495年9日
昨夜の試合に向けてコンディションを調整していただけに、試合がないとなると体力が有り余っちまってどうにも眠れねぇ。
そんなワケで、こういう時の定番・未明の散歩。
その途中、ふらりと神殿に立ち寄ったんだけど。
そしたら、ちょうど今日ミダ杯の挑戦者決定戦で対戦するナイームさんとバッタリ会っちまった。
「キミも訓練かい?」
「いや、ただの散歩ですよ」
そんな話しかしなかったんだが、あの目は間違いなく「今夜の試合は絶対負けない」って目だったな。
まぁ、その方がオレとしても張り合いがあるってモンだけど。
それから、朝になって。
たまたまその時いたのが温泉前だったんで、とりあえずは手近なアイシャ湖で一泳ぎすることにした。
清々しい朝の空気と、澄み切った水。
バスの浜もいいけど、やっぱ朝一の訓練はアイシャ湖に限るな。
そんなことを考えながら、湖から上がると……シャウトのヤツが、この世の終わりみたいな顔をして突っ立ってやがった。
せっかくのさわやかな気分を台無しにしやがって、一体どういうつもりなんだ、あいつは?
そう思って、ちょっと声をかけてみたんだけど。
「おい、ンなトコで何やってんだよ?」
「……彼女に、フラれたんだよ」
呟くようなその声を聞いて、内心しまったと思った。
なんか、わざわざ傷口を広げるようなマネをしちまった気もするし、聞いちまった以上そのままにして立ち去るってワケにもいかねぇし。
とはいえ、なんて言ったらいいのか、オレにはよくわかんねぇし。
「ま、まぁ、あまり気を落とすなよ」
結局、そんな当たり障りのないことを言ってお茶を濁すしかなかった。
すると、シャウトは……無理に笑顔を作って、こう言ったんだ。
「そんなことより、オレこれから試合なんだけど、応援に来てくれねぇか?
最近誰も来てくれなくて、正直張り合いねぇんだよな」
もちろん、この状況で、断れるワケねぇだろ?
「そんなことならお安い御用だ。オレも、夜の試合までどうやって時間を潰そうか悩んでたところだからな」
そう答えて、オレは早速闘技場の方に向かった。
失恋表示があるのを確認した上で「どう、最近?」と尋ねてみたのだが、「失恋したんだ」ではなく「こんど、試合があるんだ」という返事が返ってきた。その方が優先順位が上なのか。
そして、しばらく待っていると、ようやくシャウトがやってきた。
やってくるにはきたんだが、なんかまだ「心ここにあらず」、って感じなんだよな。
対するは、結婚を明日に控えたアンジェラさん。
シャウトにとっちゃ、いろんな意味で負けられない試合だろう……と思うんだが、あのコンディションじゃなぁ。
と、そんなこんなで試合開始。
まずはシャウトが灼火錬術で先手を取ったが、二発目を撃ちに行ったところにアンジェラさんのオーラナックルがカウンターでヒット。
その後の攻撃をしのぎ、メニスカスレイなどで必死に追い上げるも、結局133対107で敗北。
実力から言えば負ける相手じゃないんだろうが、今日は技に全然キレがなかったからなぁ……。
湖前から直接ショルグ前に移動していたので、ストレスがたまりっぱなしだったようだ。
ともあれ、そうこうしているうちにオレの試合の時間が近づいてきたんで、すぐにプルト闘技場に移動。
ナイームさんもその直後にやってきて、少なくとも、試合が行われることだけは確実になった。
それにしても。
今日はいよいよ挑戦者決定戦だってのに、本気で客が少ねぇ。
ほとんど子供くらいしかいねぇんだが、ナイームさんはその子供たちに人気があるらしく、グリージャちゃんにメガエラちゃん、ブルックちゃんにテヨンまでが向こうの応援に回ってやがる。
それに対して、こっちを応援してくれるのはストリーチェとキッカー、そして数少ない大人の観客のケミカルさん。
まぁいい、ファンの人数の差が戦力の決定的な違いでないことを見せてやるぜっ!
……と、ちょっと気合いを入れ過ぎたせいか、試合開始直後にいきなりナイームさんの召下雷撃をくらって大ピンチ。
その後灼火錬術と火風導法のラッシュで一気に押し返したが、突き放そうとしたところでカウンター気味にメニスカスレイを決められて再逆転。
今度ばかりは本気でヤバいか、と思ったが、最後に一か八かで放った灼火錬術が何とか決まり、結局105対128で薄氷の勝利。
勝つには勝ったが、いまいち納得いかねぇんで、クールダウンもかねて、砂浜を走ってから家へ帰った。
495年10日
さてさて、今日はいよいよミダ杯決勝戦だ。
ってなわけで、朝一に神殿に行って今日の勝利を祈った後、そのままイムイムナァムとアンジェラさんの結婚式に参列。
アンジェラさんの側の参列者が、ウルグ長とショルグ長を除くと3人しかいないのがちょっと気になったが、結婚式自体は滞りなく行われた。
姓はアンジェラさんのローシンに統一……って、イムイムナァムの苗字って何だったっけ?
一旦家で休んだ後、午後からはハリスとテイタムの結婚式にも参列。
姓はハリスのバイドラーに統一されたんだけど、バイドラーさんもリードさんもこの国にはいっぱいいるんだよなぁ。
ともあれ、昼の結婚式の後は、いよいよミダ杯決勝戦。
決勝戦にしちゃお客はやや少なめだが、応援の人数はこっちの方が多い。
メガエラちゃんにテヨン、そしてついさっき結婚式を挙げたばかりのハリスまで応援に来てくれたとあっちゃ、負けるワケにはいかねぇよな!
そして、ついに試合開始だ。
ここ二試合の反省を生かして、オレは開始早々から灼火錬術と火風導法のラッシュで一気に押し込んでいく。
ウェザーさんもヘヴィブルーズやステップブロウで反撃してくるが、オレのスピードならほとんど出だしを潰せるし、潰し損なっても体術技ならそんなに痛くはない。
オレは気にせずそのまま攻め続け、結局255対42でKO勝ちした。
予想外の歓声に、ふと客席を見ると、いつの間にか満員になっていて、カナリアが最前列で応援してくれていた。
なんか、二重に嬉しかった。本当に。
さらに、その後も三重、四重に嬉しいことが続いた。
閉会式ではあのドラゴンバスターの議長に「優勝者にふさわしい」と言ってもらえたし、賞金として10000プゥ近くもの大金を貰えたし。
その上、家には倍率25倍以上のオレのギブルが、4枚もあるんだよな。
でも、やっぱり一番嬉しいのは、これで確実に今年後半のDD杯に出られる、ってことだ。
この勢いでバグウェルにも勝って、今年を最高の年にしてやるぜっ!
495年11日
「苦しい時の神頼みは誰でもするが、嬉しい時の神への感謝は忘れている人が多い」って、昔誰かが言ってたよな。
そんな言葉を思い出しちまったんで、とりあえず朝一でワクト神殿に優勝報告を兼ねたお礼参りに行くことに決定。
その途中で、ちょっと気になって掲示板をのぞいてみたんだが……やっぱり、オレが長者番付1位になってた。
まぁ、この国じゃ金なんてなきゃないでどうにでもなるモンだけど、それでもやっぱり1位ってのは嬉しいよな。
さすがに、失恋王は勘弁してほしいけど。
ちなみにこの時点での所持金は12410プゥ。
で、お礼参りを終えて神殿を出ると、ちょうど誰かがギブルの換金に来たところだった。
オレに賭けてくれたのは誰だろう、と思って、ちょっと近づいてみたんだが。
そしたら、なんと、ディフェンディングチャンピオンのウェザーさんじゃねぇか。
「昨日は負けたよ。君が来たら危ないかもしれないとは思っていたが、やはり勝てなかったな」
オレに気づいて、ウェザーさんはそう言って笑った。
この国に来てから、いや、物心ついてからずっと強くなりたいと思っていた。
いつか、この国の誰よりも強くなること。ずっと、それだけを目指してきた。
そして、ようやく強くなれた……強くなったと、認めてもらえた。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
その後は、少しアイシャ湖で泳いだりしてから、少し早めに家に帰った。
そしたら、夜中にカナリアが来てさ。
「今日の試合、応援に来てくれなかったよね」って。
そういや、カナリアの試合は今日からだったんだよな。
ンなこといちいち言いに来るなよ、とも思ったけど、まぁ、明日は特にやることもないし、応援に行ってやってもいいかな。
495年12日
今日はオレの13才の誕生日だ。
もうオレもガキじゃねぇんだし、Aリーガーともなるとそれなりの貫禄ってヤツがいるだろうし……と思ったんで、ちょっと髪型なんかを変えてみることにした。
この国じゃ、13歳になると服も違ったのにしなきゃならねぇしな。
とまぁ、それはさておき。
昨日のこともあるし、今日はカナリアの試合の応援に行ってやらねぇとな。
と、応援に来てはみたんだけど。
今日のカナリアの相手は、よりにもよってムラドさん。
正直に言って、Cリーグの中でも最もくみしやすい相手だ。
当然、そんな相手に手こずるカナリアじゃない。
いきなり開始直後の召下雷撃でペースをつかむと、即コールドランスにつなげて大量リードを確保。
さらにコールドランス、灼火錬術、コールドランスとたたみかけて、ほぼ勝利を確実にしたところで息切れ。
ムラドさんも懸命にエアスラッシュで反撃したが当然追いつくはずもなく、114対215でカナリアの勝利。
あんまり見てて面白い試合じゃなかったが、まぁ、勝ったからよし、ってことにしとくか。
昨日の試合も勝ってたらしいんで、カナリアはこれで2連勝。
こりゃ、来年はBリーグかな?
その後は、バスの浜まで足を伸ばして砂浜ダッシュ。
温泉で汗を流してからアイシャ湖で泳いで、また温泉。
最後に砂浜でもう一度走ってから家に帰った。
で、ひと休みしてると、今日もカナリアが来た。
「今日は応援ありがとう。これ、そのお礼」
そう言いながらカナリアが差し出したのは……カイモドキ。
正直に言って、カイモドキなんかもらってもどうしようもないんだけど……突っ返すわけにもいかねぇし、一応もらうだけはもらっておいた。
カイモドキをくれたのは実話。
このサイトの名前が「カイモドキ」なこともあって、プレイヤー的にはかなりおいしかった。
495年13日
昨日カイモドキをもらったからってワケでもねぇが、とりあえず今日もカナリアの応援に行くことにする。
と、その前に、まずはショルグ前で今年の状況をチェックだ。
カナリアはCリーグ3位で、今年はここまで2勝0敗。
C1のムラドさんが1ー2、C2のセレールさんが1ー1と、上位は揃って不調のようだ。
Cリーグ4位のマラビーヤさんが2勝0敗できてるのが不気味っちゃ不気味だが、他は特に問題なさそうだな。
ついでにシャウトの戦績も見てみたが……どうも初戦で調子を崩したらしく、ここまで0勝2敗と足踏み濃厚。
ったく、戦ってみたいヤツに限って上がってこねぇな……。
それはさておき。
今日のカナリアの相手はセレールさん。
観戦に来たのがフィービーさんとオレだけという非常に寂しい状況の中、静かに試合が始まった。
……と思ったら、開始早々カナリアがオーラナックルを2連発、例によって例の如く、先制逃げ切りの作戦に出たようだ。
しかしセレールさんもさるもの、即座にブレイズソードで切り返して、体勢を立て直してくる。
それでもカナリアは怯まず前に出て、気合いでセレールさんを圧倒。
そのままオーラナックルと召下雷撃でたたみかけて、29対180で快勝した。
これでカナリアは3連勝。
ってこたぁ、マラビーヤさんが残りの試合を2連勝しない限り、カナリアが昇格する、ってことか。
まぁ、マラビーヤさんが他の奴との試合を落とすとも思えねぇし、結局昇格争いは最後の直接対決に持ち越しだろうな。
その後、一旦家に帰って休んでると、なぜかジマナァムのレディさんがデートに誘いに来た。
まぁ、断るには断ったんだけど……ああいう人もちょっといいかな、って思っちまった。
だいぶ年上だけど、落ち着いてて、優しそうで……うーん。
レディさんの性格は「信心深い」で、バーニングの「超ワイルド」とは対照的。
正直、「ラムサラ好き」のカナリアよりよっぽどいいような気もする。
ってか、冷静に考えると、勤勉さと優しさが共に最低クラスのカップルって一体?
495年14日
今日はカナリアの今季最終戦ってことで、当然応援に行く。
相手は最も油断ならないマラビーヤさん……なんだが、どうも昨日の試合を落としたらしく、すでに1敗になってた。
これでカナリアの昇格は決定なんだが、それでも、やっぱり最後は勝って終わりたいよな。
それは、カナリアも同じ気持ちだったらしい。
開始早々、マラビーヤさんの魔術にカナリアがカウンターでオーラナックルをぶち込むと、そこから召下雷撃、さらに剣術技にカウンターで召下雷撃と完璧な攻め。
その後灼火錬術の4連発を食らうも、最後はオーラナックルでしめて255対68の見事なKO。
Cリーグ完全制覇で昇格を勝ち取った、ってとこか。
ちなみに、シャウトは1ー3も3位から5位が全て1ー3のため4位のままで残留確定。
んで。
試合を見終わって、大通りに出たところでふと思ったんだが。
ミダ杯やら何やらで、今年は仕事を全くしてねぇ。
どうせ16日からは試合試合で忙しいんだろうし、空いた時間に少しでもやっておくか……ってなワケで、ガアチウルグで仕事をしてみたんだが。
結局時間ばかりかかって、とれたのは全部テコン岩石。
納品してももらえたのは8ポイントだけで、やっぱりオレには向いてねぇって現実を思い知らされた。
……それはそうと、途中でウォルターがヤケに嬉しそうにしてるのを見たんだが、一体なんだったんだ?
そんなことを疑問に思いながらの帰り道。
マイラに会ったんだが、なんかマイラもやたら嬉しそうなんだよなぁ。
気になって「何かいいことでもあったか?」と聞いてみたんだが、「明日のウルグ祭、楽しみよね」とはぐらかされちまった。
ん〜……一体なんなんだ?
495年15日
明日からいよいよDD杯のギブル発売ってことで、ミダ杯のギブルの換金は今日まで。
自分のギブルってことで今まで手元においてあったんだが、ムダにするのももったいねぇんで換金に行く。
29倍が4枚で11600プゥ……って、オレの今持ってる全財産と大差ねぇじゃねぇか。
まぁ、それだけオレのギブルが売れてなかった、ってことなんだろうな。
これで所持金は24010プゥとなり、ダントツの長者番付1位。
んで、その後は例年どおりのウルグ祭巡り。
比較的クソミソにいわれることの多いリムウルグで「とっても行動的」ってほめられたのはよかったが、その後のバハウルグでは「すこし悪い人生運、病に気をつけよ」とかおどかされるし、ガアチウルグでは「よくもなく、悪くもなく、普通の名前」だけで、あんまり収穫はなかった。
……まぁ、とりあえず病気には気をつけるようにするか。
なんたって、この後にはDD杯が控えてるんだからな。
そんなこんなで家に帰ってひと休みしてると、いつものようにカナリアがきた。
「私も昨日で試合終わったし、暇だったら明日一緒に出かけない?」
返事? 書かなくてもわかるだろ。