チアフル「……はぁ……困ったなぁ」
ラウド「そこのあなた。失礼ですが、何やらお困りのようですね」
チアフル「えっ? どうしてわかったの?」
ラウド「困ったなぁって言ってましたから。 一体何があったのか、よければ聞かせてもらえませんか?」
チアフル「実は、今好きな人がいるんだけど、その人が『結婚するなら、料理の得意な人がいいな』って」
ラウド「なるほど。それなら私ですね」
チアフル「あなたは男でしょ? その人はノーマルだから」
ラウド「ノーマルな女の人じゃないんですか?」
チアフル「あたしもノーマルだから。あたしってそんな風に見られてたの?」
ラウド「いえ、ただの希望的観測です」
チアフル「変な希望をもつのはやめてほしいんだけど。それはそうと、あなた料理得意なの?」
ラウド「ええ。何を隠そう、『料理の怪人』とは私のことですから」
チアフル「全然聞いたことないな。それに、『鉄人』ならともかく、『怪人』はあんまりいいイメージないよね?」
ラウド「どっちかというと、『どくいり きけん たべたら しぬで』って感じですよね」
チアフル「21面相? って、食べたら死ぬよう料理じゃ困るんだけど」
ラウド「まあ、『死ぬほどおいしい』ということで納得していただければと」
チアフル「うまいこと言うのね。でも、その前に思いっきり『どくいり きけん』って言ってなかった?」
ラウド「ほんの言葉のあやですよ」
チアフル「そういう物騒な言葉のあやはやめてほしいなぁ」
ラウド「まあまあ。それより、よろしければ、私がとっておきの料理をお教えしましょうか?」
チアフル「いいの? それじゃ、お願いしようかな。反面教師くらいにはなりそうだし」
ラウド「全然信用してませんね?」
チアフル「ここまでの言動が怪しすぎるんだもの。まあ、本当に料理が得意なら、実力で信用を勝ち取ってよね」
ラウド「わかりました。では、まず材料ですが、新鮮なカイモドキとマルムル茸をいくつか用意してください」
チアフル「カイモドキ? それって食べられない魚じゃなかった?」
ラウド「一般的にはそう思われていますが、実はちゃんと調理すれば食べられるんですよ」
チアフル「ああ、毒のある部分を念入りに取り除いたりするのね。で、味の方はどうなの?」
ラウド「それが、おいしくておいしくて。もう、『たべたら しぬで』って感じですよ」
チアフル「それ、きっと『どくいり きけん』だよね?」
ラウド「まあ、『死ぬほどおいしい』ということで納得していただければと」
チアフル「さっきも全く同じこと言ってたよね? 二度目はくどいよ?」
ラウド「まあまあ。で、実際の調理法ですが、まずカイモドキは角を切り落とします」
チアフル「確か、角の先に毒があるんだったよね」
ラウド「で、切った角の方を使いますから、残りは海に返してあげて下さい」
チアフル「二ついっぺんはツッコミにくいから、ボケは一度に一つにしてもらいたかったんだけど?」
ラウド「そして、マルムル茸の方は、根の部分を、生で使います」
チアフル「あれ? でも、マルムル茸の根って確か毒があるんじゃなかった?」
ラウド「『毒も過ぎれば薬となる』って言うじゃないですか」
チアフル「『薬も過ぎれば毒となる』とは言うけど、毒は過ぎてもせいぜい猛毒になるだけだと思うよ?」
ラウド「間違えました。『毒を盛って毒で殺す』でしたっけ」
チアフル「話の流れから考えると、『毒をもって毒を制す』だよね?」
ラウド「そう、それですそれ。で、この二つをよく潰して、混ぜて、練って固めれば出来上がり、と」
チアフル「あれ? これ、どこかで見たような……?」
ラウド「ええ。スピリットの訓練に使えますよ」
チアフル「あ、やっぱり。へぇ、こうやって作られてたんだ」
ラウド「明日には葬儀が行われますから」
チアフル「って、モソムルじゃないし! やっぱり猛毒だし!! そもそもプルトのお葬式はスピリットの訓練にならないし!!!」
ラウド「三ついっぺんはますますツッコミづらいし!」
チアフル「わかってるならやらないでよっ!!」