「ワールド・ネバーランド(以下ワーネバ)」というゲームをご存じだろうか。
「ワーネバ」とは、1997年にリバーヒルソフトより発売された、いわゆる西洋的なファンタジー世界に近い世界観をもつ架空の世界「オルルド王国」を舞台とする「人生シミュレーションゲーム」、あるいは「本当の意味でのロールプレイングゲーム」である。
このゲームの最大の特徴は、「プレイヤーの操作するキャラクター(以下PC)が、プレイヤーが操作しないキャラクター(以下NPC)」とほぼ同格である、ということにつきる。
もちろん、裏方的な存在である国王や執事、市場の店主、そして試合時の審判等、PCとは明らかに一線を画するキャラクターも存在することは存在する。
けれども、「ワーネバ」に登場するキャラクターの大半は、一般の国民であり、彼等はほぼPCと同等のことができた。
これは、ある意味では昨今特に流行している「オンラインゲーム」にきわめて近い、と言うこともできる。
一部の裏方的なNPCと、大量のPCたち。
そして、そのPCたちの全員が、自分自身、そして彼等を操作するプレイヤーにとっては主人公でありながら、決してゲーム全体の主人公ではあり得ない。
むろん、それぞれのPCたちの行動が、時にはゲームの舞台となる世界にある程度の変化をもたらすこともある。
しかし、それが「決定的」となることはない。
いわゆる「ゲームクリア」はなく、そこでは「終わりなき物語」が綴られ続ける。
そんなオンラインゲームに近い雰囲気が、「ワーネバ」にはあった。
だが。
ここで当たり前のことを繰り返すが、「ワーネバ」はオンラインゲームではない。
その証拠に、「ワーネバ」には、「ゲームクリア」が存在した。
PCの死亡による終わり、つまり「ゲームオーバー」ではなく、「ゲームクリア」という形での終わりが、そこには確かに存在したのである。
そして当然のことながら、それはPCのみに与えられた特権だった。
つまり、PCは「ゲーム全体の主人公たり得た」のだ。
ただ、あくまで「主人公たり得た」と言うだけで、「主人公になる必要がある」わけではなかった。
それだけでも、「ワーネバ」は異質なゲームと言えただろう。
その傾向は、1999年に発売された「ワールド・ネバーランド2(以下ワーネバ2)」でさらに強まった。
「ワーネバ2」には、「ゲームクリア」はなかったのである。
そこには、明らかに「終わらない物語」があった。
「ゲームオーバー」という、「基本的には望まれない終わり方」を除いては、終わることのない物語が。
また、「ワーネバ」から「ワーネバ2」になって大きく進化した点としては、「パスワードの存在」があげられる。
先述した通り、「ワーネバ」では、PCとNPCの間にほとんど差は見られない。
事実、このゲームの特徴の一つである「操作キャラクターの継承」では、今までNPCであったPCの子供が今度はPCになり、今までPCであったキャラクターが逆にNPCとなる、という「PC=NPC」を証明する現象が起こっている。
PCは他の大多数の国民、つまりNPCと同格である。
このことは、他のプレイヤーのPCをも、「他の大多数の国民」の一人として受け入れられる可能性を意味している。
そして事実、「ワーネバ」には、その機能があった。
しかし残念なことに、最初のPS版「ワーネバ」においては、「他のプレイヤーのデータに自分のPCを移住させる」にも、「自分のデータに他のPCを(NPCとして)受け入れる」にも、両方のプレイヤーのデータが入ったメモリーカードが必要であったため、実際にその機能を活用できる機会は非常に限られたものとなってしまっていた。
せっかく、リバーヒルソフトが「公式サイト」を立ち上げ、充実したインターネット上でのサポートを行い、ユーザーの連結が密になっていたにもかかわらず、である。
ところが、「ワーネバ2」になって、事態は大きく変わった。
「移住者を受け入れる」側は相変わらずメモリーカードを必要としたが、移住する側はパスワードのみで済むようになったのだ。
これにより、「ワーネバ2」の公式サイトはもちろん、あちこちのファンサイト等でパスワードの交換や公開が盛んに行われるようになり、ますます「ワーネバ2」はオンラインゲームに近づいた。
自分のPCがいる。それとほぼ同じことをできる他人のPCがいる。
これほど「オンラインゲーム」的な、「オンラインゲーム」でないゲームが、他にあるだろうか?
けれども。
蛇足を承知で繰り返すが、「ワーネバ2」も、やはりオンラインゲームではない。
確かに、他のプレイヤーのPCも、自分のゲーム内に受け入れることはできる。
しかし、それはあくまで「NPCとなった他人のPC」であり、「もともとのプレイヤーからは切り離されたキャラクター」であったからだ。
パスワードという形で送られ、NPCとしてゲームに登場した他人のPCは、あくまでNPCとして、他のNPCと同様に、それほど賢くない行動ルーチンの通りにふるまう。
つまり、プレイヤーがその気になれば、多少自分のPCの能力(注1)が劣っていようとも、相手を上回ることは十分可能なのである。
そして何より、こういった遊び方は私は推奨しないが、その気になればリセットすることだってできる。
「ワーネバ2」においても、PCはやはり「特別な存在」たり得たのだ。
「ゲーム全体の主人公」と言うほどではないにせよ、少なくとも「オンラインゲームにおける超有名PC」程度には。
加えて、「他のプレイヤーが関与していない」ということは、「自分が何をやっても、機嫌を損ねる相手などいない」ということであり、「通常の行為の範囲を超えて、自分に嫌がらせをしてくる相手もいない」ということである。
自分(のPC)には行動の自由(気に入った相手をずっとつけ回すなど、一般的なオンラインゲームでは普通いやがられるような行為も含む)があり、嫌がらせをされる心配がなく、全く活躍できないという心配もない。
それでいて、先述のパスワード交換など、プレイヤー同士の交流もそれなりにある。
こうして考えると、「ワーネバ2」とは、直接ゲーム世界を共有するオンラインゲームとは違った「ワンクッションおいたオンラインゲーム」、もしくは「疑似オンラインゲーム」であり、「オンラインゲームとオフラインゲームの長所を(ともに完全ではないにせよ)兼ね備えたゲーム」だったのではないだろうか。